「おかえり!」
苦笑いし迎え入れるは家主でない人間。
「……本当に来たんだ」
帰ってきた家主は呆れ顔のため息混じりで、笑いながらそう言った。
日曜日の午後9時過ぎの出来事である。
9日の夕方、私は不安を抱え彼の家へと向かった。
駅に着けど、もちろん迎えなどない。
彼の家へ着くと、私は荷物を置きすぐに近所のスーパーへと買い出しに出た。
彼が帰宅するまで、あと2時間。
買い出しが終わり、いざ夕食作り。
ベタだとは思ったが、彼が好きであろう「トマト煮込みハンバーグ」を作ることにした。
剥いたり切ったり捏ねたり焼いたり煮込んだり、なんとか無事に完成。……したものの、量がおかしい。
レシピには「2~3人分」と書いてあった。気持ち少なめに材料を用意した。
だが、なぜだ。
ハンバーグは5つ。「5つ」出来ている。
「……また
卯刻に『あんぽんたん』と言われてしまう……」
しかし、作ってしまったものは仕方あるまい。
明日の朝も食べるか。
それから、デザートとして「あんこクレープ」も作り、準備万端な状態。
あとは卯刻の帰宅を待つのみ。
まだ時間があったから、部屋の片付けをすることに。
あまり綺麗にしすぎると、彼の「カノジョ」に不審がられるから、少しだけ。
だが帰宅予定時間になっても、彼はまだ帰ってこない。
仕方ないから勉強でもしようかと教科書を広げると、「ピンポーン」とベルが鳴った。
そして、冒頭に戻るのである。
帰宅した彼の様子から、私は自分の不安――関係解消を切り出されるのではないかという不安――は杞憂であったのだろうと感じた。
いつもと変わらない、若干ふざけた風な彼が、そこにはいたから。
彼は夕食を美味しそうに食べてくれた。
ハンバーグ2つも食べたから、とても満腹そうだったけどね。
それから日付が変わり、彼の生誕の日を祝った。
……そう。これがしたくて、私はこの日、無理を承知で彼の家に泊まることを懇願したのだ。
ちなみにカノジョはその日の夜、泊まりくるという。
その後、明け方まで作業をして、日が出る少し前からイチャイチャしていた。
やはり卯刻とのセックスは気持ちが良かった。
好きだ。
お互い翌日は用事があったため、ほぼ不眠状態のまま出発。
電車内で「カノジョにこの間、『彼氏が浮気したらどうする?』と聞いたの。そしたら『ありえない』って笑ってたわ。それから、『浮気してるか、冗談で聞いてみたら?』と勧めておいたよ」と言ったら、「何を余計なこと言っているんだ。それを楽しんでいるのは君だけだからね」とお冠。
「家に泊まらすの、月一に減らすよ!?」と彼。
「えぇ、嫌だよ」と私はごねた。
しかし即座に彼は「……って言っても、月一はいいんだね(笑)なくす、とかだよね、普通(笑)」と自ら突っ込んでいた。
確かにそうだ。彼は私を受け入れない選択をする気はないのだな、と感じた。
それが私にとってはとてもとてつもなくうれしいのだと、彼は気付いてないだろう。
「それにさ、前に『回数減らさなきゃ』とか言ってなかった?」
「……そう、だっけ?(笑)」私はしらばっくれた。
彼が受け入れるなら、引く必要はないと、思ったから。
しあわせな気分だった私であったが、直後の彼の言葉に、また地へと落とされた。
「この関係も
年内だけでしょ」
彼曰く、長期で続ける気は毛頭ないらしい。
それに対して、私は否定するでもなく肯定するでもなく、無言でいた。
年内の間、気持ちを切り替えなくちゃいけないのかな。
いや、まだ深く考えなくていいや。
まだまだ、いい。
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